
賀来賢人とデイヴ・ボイル監督が共同設立した映像製作会社「SIGNAL181」の第1弾長編映画『Never After Dark/ネバーアフターダーク』が、6月5日に公開される。霊媒師の愛里が怪奇現象を解決するべく訪れた山奥の洋館で、正体不明の恐怖に巻き込まれていくという物語。Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」で世界的ヒットを記録した賀来がプロデューサーとして企画を牽引し、自らも出演。主演には、『SHOGUN 将軍』でクリティクス・チョイス賞助演女優賞を受賞した穂志もえかを迎えた。ハリウッドの定石でもなく、日本映画の慣習でもない場所に自分たちの手で道を切り拓いてきた二人に、本作の魅力と互いから受けた刺激について訊いた。
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“いい違和感”が誘う、新しいエンタメ映画の形

── 主人公の愛里は、霊媒師という特殊な能力を持ちながら、人物としての機微も求められる難しい役柄です。どのようにキャラクターを作っていかれましたか?
穂志 この世界観は独特ですし、私が演じた愛里という役は他の人にはない能力を持っています。ちゃんとその世界に生きていられるためには、この世界で愛里には何が見えているのかやどういう生い立ちなのかといった細かい設定を知る必要があるなと思い、監督のデイヴにたくさん質問をしました。デイヴははっきりとした答えを持っていたので、役作りにおいてとても助けられました。
賀来 この役に穂志さんをキャスティングした理由のひとつは、これまでの作品を見させていただいたときに、記号的なものが一切ないお芝居をされる方だなと思ったこと。それがまさに愛里にぴったりでした。撮影前にデイヴと一緒に座学のようなことをやったのですが、穂志さんの思う愛里像と僕たちの愛里像を擦り合わせていく中で、「愛里ってこういうキャラクターだったんだ」と逆にこちらが教えてもらうような感覚がありました。現場でも穂志さんのひとつひとつのリアクションが僕たちの想像と真逆で、そこから「愛里ってそういうことだったんだ」と気付かされることの方がむしろ多かった。1番掴みづらいキャラクターだったと思うのですが、僕らも穂志さんにすごく助けられました。
── 完成した作品をご覧になった感想を、プロデューサーとして、主演として、それぞれ教えてください。
賀来 僕が一番恐れていたのは、“届く人に届けばいい”という映画を作ってしまうこと。説明台詞はあまり入れたくない、でもたくさんの人がちゃんと追いつける映画にしたい。それが僕とデイヴの共通認識だったのですが、完成した作品が思った以上にエンタメしていたっていうのが嬉しい誤算で、それはデイヴの手腕だなと思います。
穂志 まず、何よりも「見たことのないテイストの映画だな」と思いました。どこかにジャンル分けしようとしてもできない。それは多分、デイヴやカメラマンのパトリックがウエスタンのカルチャーや価値観を持ち込んで、日本のクルーやキャストとどちらかを押し付け合うのではなく、いいコラボレーションになっているから起きたことだと思うんです。どっちにも染まっていない感じ。お客さんとして“いい違和感”があるというか。初めて体験するアトラクションに乗っているみたいな感覚がありました。
こだわり抜いたディテールと海外からの反応

── 劇中に出てくる衣装やセットの作り込みが印象的でしたが、ビジュアル面のこだわりについても教えてください。
賀来 本作で初めて予算の振り分けから関わったのですが、改めて感じたのは、多くの日本の映画制作においてビジュアル面に対する予算の優先順位がかなり低いということ。僕は洋画で育ったので、自分が作るなら視覚的な部分をすごく大切にしたいと常々思っていて、今回は衣装や小道具を一から作っていただいたり、撮影もLAのカメラマンにお願いしたりしています。ルックからチャレンジしてみようというのは、かなり意識的にやっているので注目していただけたら嬉しいです。
穂志 衣装を一から作っていただく現場というのは本当に珍しくて、手がかけられている分、作品に対する想いをより感じられました。ディテールのひとつひとつが、私の役作りの糧になるような。コンパクトな制作体制だったので、スタッフ皆さんの顔が見えるし、各部署それぞれの出力を感じられて、手作り感がすごくある現場でした。
賀来 劇中に出てくる回転鏡なんかも一から作っていただいたんですけど、SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト・注1)では海外のオーディエンスからも「あれは本当に日本に存在するものなのか」「呪術の歴史は日本にあるのか」とすごく聞かれました。美術からそういう説得力を持たせられたのはありがたかったですね。
── SXSWでの観客の反応はいかがでしたか?
賀来 一番印象的だったのは、終盤の過激でシリアスなシーンで客席から「おいおい、嘘だろ!」みたいなリアクションが起きたこと。
穂志 そこで笑ってる人もいましたよね。
賀来 ホラーって海外の方たちの感覚からすると笑える要素もたくさんあるみたいで、日本とはちょっと違うんですよね。それを体感できたのが面白かった。デイヴはずっとニヤニヤしながら、「ホラーは基本的に笑うもんだから」って言いながら撮ってましたからね。
現場に一体感を生む環境作り

── 現場での環境づくりにもこだわりがあったそうですね。
穂志 賀来さんがお茶場をコンビニのように充実させてくれたことがとても印象的でした。
賀来 まさに俺の作ったコンビニ。本当にないものはなかったと思う。後から「俺はなんであそこにあんなに使っちゃったんだろう」って思ったけど(笑)。
穂志 でも、冗談抜きで本当に大切なことだと思います。時間がない中、スタッフさんたちが駆け込める場所でもあり、リフレッシュできたり、小腹を満たせたり。大事なんです、ああいうことが。
賀来 そうそう。お茶場って俳優にとっても大事な場所で、スタッフとキャストの会話の場にもなる。いってみれば、みんなの喫煙所みたいなもの。そういう場を作りたかったんです。
── ほかにも現場づくりで印象に残っていることはありますか?
賀来 穂志さんから毎朝撮影前に朝礼をしましょうと提案いただいて、「おはようございます」から始まって、「今日もよろしくお願いします」で締めるルーティンが生まれました。結果的にその習慣が現場の信頼感につながったので、今後も絶対に続けていきたいと思いました。
穂志 そもそもそういう提案を自分からできたのは、賀来さんのスタンスに影響を受けたから。強がるのではなくて「僕たちも手探りです」ということをちゃんと現場で言ってくれて、ありのままでいてくれる。その姿にすごく信頼ができて、私もいろんな提案をさせていただきました。
朝礼に関しては、主演が久しぶりだったこともあって、張り切りすぎてハラスメント的なことを絶対に起こしたくないという謎の気合いも入っていたんですけど(笑)。ナイトシフトとデイシフトが交錯するスケジュールで疲れも溜まってくる中、「みんなのことを見ているよ」ということを伝えるために何ができるかなと考えて、知り合いの俳優に相談したら「『SHOGUN 将軍』の現場でやっていた朝礼はどう?」と教えてくれて。突然こんなことを言って空回りしてないかな、とドキドキしながら提案したら、賀来さんもデイヴもすんなり賛同してくれました。
手探りで進んできた二人の挑戦とその先へ

── 「忍びの家 House of Ninjas」をきっかけに製作会社を設立。足場を作る覚悟を決められたきっかけは?
賀来 「忍びの家 House of Ninjas」の撮影中から、デイヴとはすっかり意気投合して、「次何作る?」って雑談ベースでずっと話していたんです。話すたびに「いいね」って思うポイントが同じで、趣味がすごく合っていました。デイヴは暇な時も誰に出すでもなく物語を趣味で書いたりしていて、ストックが異常なほどある。こんな人と組めたら楽しいだろうなと思って、「一緒に会社やらない?」って誘ったんですよ。二つ返事で「やろう」と言ってくれて、じゃあ何するってなったときに、「とりあえず発表しない?」って。何も決まっていないのに発表しちゃったんです。
── 発表時にやることは決めていなかったんですね。
賀来 発表したからには作らないとね、っていう追いかけスタイルで自分たちのケツを叩きながらここまで来ました。映画作りってもちろん大変ですけど、たくさんの失敗と学びを経て思ったのは、「できるな」ということ。たくさんの人と出会ったし、助けてもらったからこそなんですけどね。同じことはやりたくないので、これからはどう自分たちで自分たちが作ってきたものを更新していくかが挑戦ですね。
── 本作の撮影を通して、お互いからどのような刺激を受けましたか?
賀来 穂志さんはすごく稀有な存在ですよね。動物的というか、驚かされることの方が多くて。かと思ったら、スイッチが切れたように寝ていたり。どこからそのスイッチが来るんだろうなって思う俳優でした。
穂志 日本の作品ではプロデューサーと俳優、両方の側面を持った方とこのように近い距離感で仕事したのは今回が初めてのように感じるのですが、それが賀来さんで本当に良かったなと思いました。片手間にどちらかをやるということが一切なくて、両方ともいつも本気。それが周囲にちゃんと伝わる方って、なかなかいないと思うんです。こんなにどんどん新しいこと、未開の地にずんずんと足を進めていく人に出会えて、とても嬉しかったです。
── 賀来さんは海外のマネジメント、穂志さんは海外のエージェントと契約されています。今、ご自身のキャリアをどう描いていますか?
賀来 まずはこのデビュー作を穂志さんと一緒に日本市場に届けること。アメリカ配給も決まったので、次はどう世界に届けるか。アメリカのマネジメントと契約して痛感しているのは、ハリウッドでは想像以上にコネクションも大事だということ。でも、前には想像できなかったぐらい多くの人と出会うことができて、ここからまた多くの企画を一緒に作れそうなんです。想像してない景色を見られることが僕は大好きなので、ずっとワクワクしながら、お腹壊しながらやってます(笑)。
穂志 エージェントと契約したからといって必ずアメリカの仕事があるということはなくて、ただ自分の選択肢を増やした、可能性を広げた状態というだけだと思っています。日本だけじゃない場所からチャンスが舞い込んでくるかもしれないという状態は、もちろんワクワクするし、ありがたいことですけどね。プランニングしても予想外のことが起きて全部ダメになったり、でもその予想外の出来事を楽しんだり。そうやってここまでやってきたので、今後も目の前のこと、舞い込んできたことをひとつひとつやっていきたいです。
注1:SXSW 毎年3月にアメリカ・テキサス州オースティンで開催される、世界最大級の音楽、映画、テクノロジーが融合した国際カンファレンス&フェスティバル
information
『Never After Dark/ネバーアフターダーク』
脚本・監督:デイヴ・ボイル
企画・製作:SIGNAL181
プロデューサー:賀来賢人
出演:穂志もえか、稲垣来泉、賀来賢人、吉岡睦雄、正名僕蔵/木村多江
6月5日(金)全国公開
配給:TOHO NEXT
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穂志さん衣装・ジャケット ¥33,000 スカート ¥30,800(共にリーバイス®︎ ブルータブ™︎/リーバイ・ストラウス ジャパン/TEL. 0120-099-501) ヴィンテージのリング ¥11,000(フィズフィズ/TEL. 03-5306-6552)
写真・渡辺宏樹 インタビュー、文・市谷未希子 スタイリスト・小林新(賀来さん) 髙山エリ(穂志さん) ヘア&メイク・西岡達也(賀来さん) 渡嘉敷愛子(穂志さん)








































