
矢田恵梨子『ディグニティ‐旅行医の処方箋‐』1
余命幾ばくもない患者が最期に行きたいと夢見る場所へ連れていく。その旅の実現のために、あらゆる医療サポートをするのが旅行医だ。矢田恵梨子さんの『ディグニティ‐旅行医の処方箋‐』は、そんな旅行医が旅行会社を設立し、患者たちの望みを叶えるべく奮闘する物語。人生の終わりをどんなふうに過ごせるのがベストなのか、読み進むにつれ、深い思索へと導かれる。
終末期の患者が願う最期の旅へ尽力。命の尊厳を考える新たな視点に刮目
「この題材は、現『スピリッツ』編集長からのご提案でした。私も当時の担当編集も〈旅行医〉という存在自体が初耳で、医療ものの難しさも感じていて。本作の医療監修をお願いしている旅行医の伊藤玲哉さんにお会いする機会をいただいたんですね。柔和な方ですが、医師が同行する旅行会社を起業するなどの圧倒的な実行力や、覚悟や思考のスケール感を知り、価値観が覆されるほどの衝撃を受けました。いろいろ伺っているうち、延命の選択肢が増えたいまだからこそ問う必要がある題材だと感じました。どんな作品になるか想像もつかないものに挑戦するのは怖かったけれど、数年後では遅い、誰かに先を越されたらきっと悔しい。そう思って腹をくくりました」
1巻には、ふたりの思い出の地を旅する夫婦、姉たちとの確執から足が遠のいていた故郷へ戻るシニア男性、遠方で開催される推しのライブに参加したい還暦マダムなどが登場。どれも我がこととして捉えずにはいられないエピソードだ。
本書に登場する旅行医・運乗創史(うんじょう・そうし)は、企画当初はもっとガチガチにお堅いキャラクターだったが、伊藤医師に枠に囚われず自由に描いてくださいと言っていただき大幅に変更。
「胡散くさい詐欺師に見えて実はプロフェッショナルだし、陽気なのにミステリアス。伊藤さんなら絶対に言わない言い回しや態度もしています。緩和ケアから見ても旅行医療は新しい領域で、これが正しいと偏った価値観にならないように、他のキャラクターに異なる正義や信念を持たせていますね」
描く上では常に当事者の苦しみに配慮し、自戒と葛藤があるという。
「マンガではそぎ落とされる部分も多く、自由に描けてしまうからこそ、エンタメとリアリティのバランスを見極めるのが難しいと毎回感じています。尊厳をテーマに描いているくせに、私自身が患者さんやご家族や医療者の尊厳を踏みにじるわけにはいきませんから」
2巻は今春発売予定、乞うご期待。
Profile
矢田恵梨子
やだ・えりこ 1988年生まれ、三重県出身。京都精華大学マンガ学部卒。2015 年に小学館の新人コミック大賞青年部門に「真夏の電柱少年」で入選しデビュー。
information
『ディグニティ‐旅行医の処方箋‐』1
著者自身、終末期の旅行への理解を深めるために、旅に同行取材したり、ホスピスやがんについてのシンポジウムなどに参加したり、医療者に取材を重ねたそう。小学館 770円 Ⓒ矢田恵梨子/小学館
anan 2478号(2026年1月7日発売)より




















