90歳目前の現在でも精力的に活動を続けている、画家の横尾忠則さん。欲もなく、ただ運命の流れに身をまかせる、という横尾さんの「のんき」な生き方を紡いだエッセイ『運命まかせ』をご紹介。


普段あまり考えない分、書くときに思考を巡らせるのが楽しい

寺山修司や三島由紀夫など、いわゆるアンダーグラウンドなクリエイターからそのセンスを求められ、海外からの評価も高く、そして最近はなんとデザインのモチーフがカプセルトイにもなった。まさに国境も世代も超えて愛されている現代美術家の横尾忠則さん。現在も毎日自転車でアトリエに向かい、大きなキャンバスに絵を描いているという、バイタリティあふれる89歳です。

しかし横尾さん曰く、「“キャンバスの中で絵を描く”ということだけは一生懸命やるけれど、その他に関しては、昔から欲はまったくない」のだそうで…。エッセイ集『運命まかせ』には、そんな横尾さんの生き方や思想がつらつらと書かれています。

「そもそも僕は、2歳か3歳の頃に叔父のもとに養子に出されて育っているので、まさに運命まかせなスタートだったんです。養父母は高齢で裕福ではなかったこともあり、将来を夢見る暇もなく、中学を出たら働くもんだと思っていました。でも中学の教師に“高校くらいは”と言われて受験をし、絵が上手かったことから“美大を受けろ”と言われて勉強をし。しかも美大受験前日に美術の先生に“受験しないで帰郷しろ”と言われ、その助言に従って受験を断念…という感じの学生時代でした。

その後もひょんなことから印刷会社に入り、神戸新聞社にスカウトされ、ナショナル宣伝研究所(松下電器の関連会社)に入り、言われるがままに東京に出てきた。自分がやりたいことではなく、流れに身をまかせる。それが僕の生き方なんですよ」

もともとこのエッセイは、『週刊朝日』で連載されていたものが、同誌の休刊とともに連載も空中分解。横尾さん自身が残念に思っていたところ、別の出版社の雑誌『週刊新潮』から「うちで書きませんか?」とスカウトが来て、移籍が決定したそう。これもまた、運命まかせの結果…と言えなくもない。

「人や運命に自分をまかせてしまうと、“いったいどこに連れていかれちゃうんだろう…”って不安と恐怖を感じる人が多いと思うけれど、僕は逆。運命は僕をどこに連れていってくれるんだろう…と、期待が高まるんです。ああしたい、こうしたいと自分で開拓するのは、僕にとってはしんどい。頑張り屋の人がたくさんいる場所に放り込まれると、僕は本当にどう頑張っていいかわからなくなるんです。だから人まかせにするの、本当に楽ですよ」

ということで現在も、2000文字のエッセイを毎週連載中。テーマを見つけて毎週原稿を書くのはなかなか大変なのでは。その疑問をぶつけたところ、なんとすでに5月末発売分まで執筆済みとのこと!

「全然大変じゃないです。僕、書くの速いんです。2000文字、1時間弱で書きますよ。喋っているのと同じくらいのスピードで、思いつくまま原稿用紙1枚400文字を10分か12分で書くペースね。文章は、思考を巡らせて書くから楽しいんだと思う。普段あまりいろいろ考えないし、特に絵は考えないで描いている僕だからこそ、文章書くために思考をすると、思ってもみなかった言葉が出てくるんですよ。“自分が何を書くのか分からない”っていうことが、すごく面白いよね」

欲にまみれた現代に少々窮屈さを感じる人は、「のんき」に生きる横尾さんが綴る言葉に触れてみると、新しい扉が開けるかもしれません。

Profile

横尾忠則

よこお・ただのり 1936年生まれ、兵庫県出身。現代美術家。'60~'70年代にデザイナーとして活躍し、1972年にニューヨーク近代美術館で個展を開催。'80年に画家に転向。90歳目前の今でも精力的に活動中。

information

『運命まかせ』

どんなことも、運命に翻弄されるのが面白い。その思いに従って、ご自身曰く「のんきに」生きてきたという横尾忠則さん。日常生活や創作、老いた自身のこと、天皇ご一家と猫談議をした話など、エッセイのテーマは幅広い。新潮新書 990円

写真・三吉杏奈(TRON) インタビュー、文・河野友紀

anan 2493号(2026年4月22日発売)より
Check!

No.2494掲載

熱狂の現場 2026

2026年05月01日発売

いま人々の心を熱くするエンタメの現場に迫る「熱狂の現場 2026」特集。熱狂を生み出す現場からの熱い思いを伺いました。

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